臨床の現場において、バランス練習は非常に重要なプログラムとして位置づけられています。
しかし、対象が『どのバランス能力が低下しているか』によって処方する運動は異なりますので、しっかりと評価をしていかなければなりません。
その評価法は多岐にわたりますが、今回はバランス評価の中でもっとも信頼性が高く、多くの能力を評価できるBerg balance scale(バーグバランススケール)通称 BBSについて解説します。
実はあまり知られていないメリットとデメリット、検査結果からどう考えるべきか?というお話をします。
検査結果が50点だったからバランスがよい!で終わってしまっては理学療法士として失格です。
その結果から何が考えられるか?をしっかりと考察していきましょう。
バランス評価/Berg balance scale(バーグバランススケール)とは?
バーグバランススケールはバランス能力の指標として開発された評価スケールです。
14項目ものテストを実施し、点数化することで客観的に評価することができる優れたスケールです。
その手順どおりに実施すれば、誰が実施してもほぼ同じ点数になるため、信頼性と再現性に優れています。
詳しい実施方法や、検査内容を別記事にしてありますので、こちらをご参照ください。
バランス評価/バーグバランススケールの適応
バーグバランススケールは基本的にはどの患者さんにも適応します。健常者でも、大腿骨頚部骨折でも、脳卒中でも実施可能。
評価項目として
- 座位
- 立位
がスタートポジションとなりますが、その姿勢を取れるか取れないかも評価になりますので寝たきりの患者さんにも使用できます。
ただし、感覚性失語や認知症でこちらの指示が入らなかったり、理解力が低下している患者には適応しません。
バーグバランススケールを実施するメリット
バーグバランススケールの実施方法はとても簡単です。
評価スケールをコピー/印刷し、その順番で患者さんに実施していただき、できた項目の点数に随時○をつけていくだけで点数化されます。
用意する道具も身近にあるものばかりですので、準備が非常に簡単。(TUGのように距離を測ったりしなくてよい)
また、その信頼性と再現性に優れており、誰が実施してもほとんど同じ点数になることでしょう。
どんな人にも適応する幅広い適応力も魅力の一つですね。(例えばTUGは歩ける事が前提となるので万人向けではない)
まとめると
- 簡単に実施できる
- 道具を揃えやすい
- 準備が簡単
- 信頼性と再現性が高い
- 適応度が高い
ということになります。
バーグバランススケールを実施するデメリット
バーグバランススケールのデメリットは実施に非常に時間がかかることと言えます。
14項目といった項目数もそうですが、ある項目では『つかまらずに2分立っている』など、時間指定もあります。
その為、全て終了するまでに慣れた人でも10分前後、不慣れな人であれば20分以上かかってしまうことも珍しくありません。
特に学生さんが『バーグバランススケールを評価します』と言ってきたときは要注意で、ぼくたち指導者は設定時間内に終わらない可能性を視野に入れておく必要があります。
その為、病院の急性期や、整形外科外来でのリハではあまり使用されず、バーグバランススケールがいくら優れていると言っても、それより簡単に実施できる片足立ちなどの簡易チェックが主流となります。
また、その評価項目に
- 移乗動作
- ものを拾う動作
- リーチ動作
- 踏み台昇降
があり、その場所が限定されます。
その為、それなりに広い空間が必要になるため、狭い場所や人が多い場所での使用に適しません。
まとめると
- 時間が10分以上かかる
- 広い場所や準備が必要
ということになります。
バーグバランススケールのカットオフ
BBSは14項目で各項目が4点満点の合計56点満点で計算されます。
カットオフ値は46点以上で室内は自立レベルであると判断され、36点以上・45点未満で室内は内見守りレベルであると判断します。
点数が45点以下であれば、その人の転倒リスクがあると判断してよいです。
【point!】
評価の際は合計点だけでなく、各項目ごとでの点数を確認し、その変化を日々評価していきましょう。HDS-Rなどの評価と同じですね。
バーグバランススケールの実施方法
- メジャー
- ストップウォッチ
- 階段などの段差
- 椅子
- 拾い上げるためのスリッパ
を用意し、ひろい場所で安全管理に配慮しながら実施していきましょう。
詳しい実施方法はBBS(バーグバランススケール)の実施方法とカットオフを新人でも分かりやすく解説!>>>をご参照ください。
バーグバランススケールの結果から考えること
バーグバランススケールを実際に行った結果、何を得られるのか?
カットオフ値だけで判断しても意味はありません。
バーグバランススケールを実施した中で、どの項目の点数が低かったのか、というところに着目します。
例えば、振り返る動作は出来たけど、その場で360度回転はできなかった…という結果が出たとしましょう。
そこから考えられる問題点はなんなのか?
- 左右から振り返る
- 360度回転
同じ回旋動作ですが、この差はなんなのか?そこに着目するべき。
そして、その360度回転が出来なかったからADL上どんな問題になるのか、ということも考えなければなりません。
検査結果からADLを考える
例えば、ずっと車椅子で生活している人に対して360度回転は出来なくても問題ないかもしれません。
しかし、トイレやベッドなどの位置関係により、横づけが出来ない場合、移乗動作の際180度回転が必要になるかもしれません。
そうなったら、360度回転の評価も(180度まで自力移動できるか)必要かもしれませんし、出来る方法を考えなければなりません。
バーグバランススケールはバランス評価ですが、そのバランスに必要な能力も様々です。
『できた』『できない』で判断するのでなく、その後どうするか、どうしていくべきか、ということを考えていきましょう。
まとめ:バーグバランススケールの特徴
- 簡単に実施できる
- 道具を揃えやすい
- 準備が簡単
- 信頼性と再現性が高い
- 適応度が高い
- 時間が10分以上かかる
- 広い場所や準備が必要
バランス能力という広い範囲の言葉を、14項目に細分化して考えられるスケールですので、バランス能力の中のどの部分が弱いかを考えるきっかけになります。
さいごに:バーグバランススケールは簡単だが難しい
みての通り、この評価はとても簡単です。
用紙に書かれている通りに実施していけばいいだけですからね。
バーグバランススケールで記載された項目を上から順番に指示通りに実施していけばよいのですからね。
しかし、実施に時間がかかるので臨床現場で気軽に実施することは少ないでしょう。
結果的に患者さんへの負担も大きくなってしまいますからね。
だから、バーグバランススケールは週に1回とか高頻度で行うのでなく
- 入院した時
- 退院直前
に実施し、その経過を観察する程度でよいのではないかと思います。
退院直前に実施する理由は、その後の外来で通院する病院や、訪問リハの療法士の現状の能力を伝えるため。
バーグバランススケールはとても簡単ですが、とても大変であるということを理解し、特に経験の浅い療法士や学生は、気軽に実施しよう!と思わず、時間的・空間的余裕があるのかをイメージしてから実施することが望ましいですね。