ぼくは理学療法士として10年以上働いています。
「腰痛は職業病」と言われるほど、理学療法士は腰痛持ちが多いのをご存知でしょうか?
今臨床実習できている学生さんも、腰痛があるそうでトランスファー(移乗動作)は控えさせていますが、「腰が痛いからトランスファーができません!」と言ってられないのも事実。
ぼくが実践している「腰の痛くならないトランスファー」を教えます。
そこで、今回は学生や新人にも教えているトランスファーの方法で「腰が痛くなりにくいトランスファー」の方法をお伝えします。
【参考文献】
腰への負担が少なくなるトランスファー(移乗動作)の準備
まず移乗動作に必要なのは準備です。
準備を怠ると、転倒などのリスクが高くなります。
そのため、入念に準備して「安心・安全」なトランスファーを実施できるようにしましょう。
準備①:車いすのセッティング
- 車いすをベッドの横に据える
- この時の車いすの角度は30度
- 車いすのブレーキを掛ける
- フットレストを開く(アームレストも外せるなら外す)
車いすのポジショニングは重要です。
どこか一つでもミスをすると重大な事故になりかねませんので注意しましょう。
準備②:対象者のポジショニング
- 対象者のでん部を前方にずらす
- 足を移動後の足の位置に近づける(最終肢位に向けて)
- 膝をロックする
- 体幹を前傾させる
- 肩甲骨の下角に手を添える
これでトランスファーの準備が完了です。
トランスファーの準備をするときは、対象者が最終的にどういった姿勢になるのかを想像します。
特に下肢・臀部の位置に注意を怠らないようにしましょう。
そして、膝のロックと上半身の3点支持をしっかりして安全に配慮しましょう。
トランスファー(移乗動作)の注意点
手順や体制が合っているのに、なぜか上手く移乗させることができない人も多いようです。
トランスファーをする場合、力のかけ方や方向も大事になるので、介助者がついやってしまいがちな間違った移乗動作も知っておきましょう。
対象者を上に持ち上げようとする
対象者を上方向に持ち上げようとすると、その体重が直接介助者にかかり、腰を痛める原因になります。
対象者の体を上でなく、前に引っ張るように移動させるように心がけましょう。
介助者が対象者と離れすぎてしまう
移乗動作は3点支持させることが重要ですが、腕の力に頼ると介助者が対象者から離れ、3点支持の原則が使えなくなってしまいます。
結果的に、介助者の負担が大きくなります。
介助者は対象者に体を預け、両手と体の3点で支えられるようにしましょう。
対象者の体が前傾しきっていない
前傾姿勢を取っていないと、介護者の腰に必要以上の負担がかかります。
移乗させるときは、対象者の体をしっかりと前傾させましょう。
膝折れ防止のロックができていない
膝のロックをしないとバランスがとりずらくなるので介助者の負担がかかり、事故や腰痛になりかねません。
以上の時は、自分の足で膝をロックしておきましょう。
対象者の背後で手を組んでしまう
以上の際、背後で手を組んでしまうと両手の自由が利かなくなり危険であり、バランスが崩れて思わぬ事故になりかねません。
介助者は両手を組まず、自由に手が使えるようにしておきましょう。
いかがでしょうか。
思い当たることがある人も多いと思います。
もしも腰への負担や、不安定さを感じたら慌てないで、このポイントをチェックしていきましょう。
それが、ぼくたちの腰を守ることにつながります。
トランスファー(移乗動作)の実際
トランスファーをする場合は対象者の病態や体格を評価したうえで、トランスファーの方法を変化させていく必要があります。
そうすることで、トランスファーの際にお互いにかかる負担を軽減したり、事故の確率を低くすることができます。
ここでは、実際に行っているトランスファーの方法を紹介します。
基本のトランスファー
- 対象者の体を両手・肩の3点で支える
- 膝折れ防止のロックをする
- 前方に引っ張るような感覚で行う
- 股関節と膝を回転させ、向きを変える
- 膝を前に押すようにして座らせる
脇の下で抱え込むようにして行うトランスファー
- 対象者の肩を自分の骨盤に当て両手を脇の下にあてがう
- そのまま引っ張るように重心を後ろに引っ張る
- 自分の下半身を中心に対象者を回す
後ろにのけぞる勢いで行うトランスファー
- 片手で対象者の脇を支える
- 反対の手で頸部をロックするように支える
- 重心を後方に移動させて、対象者を前傾させる
- 下半身全体で回転し、股関節を柔らかく使いながら移乗させる
筋弛緩している患者のトランスファー
- 前方に片膝立ちし、対象者は胸が膝につくくらい前傾させる
- 骨盤付近のズボン・鎖骨・肩の3点固定をする
- 前傾姿勢を利用して手前に引くようにして臀部を浮かせる
- 股関節を使って回転させる
対象者の背が高い場合のトランスファー
- 前方に膝をついて座り、移動する側の手を自分の後ろに回す
- 反対側の手を、対象者の腰に回す
- 自分の肩を対象者の臍下に潜り込ませる
- 肩で担ぐようにして重心を後方に移動させる
- 股関節を中心に回転させるように移乗させる
介助者が座ったまま行うトランスファー
- 対象者の足を自分の膝の上にのせる
- 重心を前方に移動させた後、自分の座っている場所に引き寄せるように回転する
- 自分は座る場所を横に移動させるように座りなおす
- 完全に移動したら膝を抜く
【参考】
まとめ:腰の痛くならないトランスファーは「持ち上げない」
介助に関しては「持ち上げない」ことを意識して行うのが大前提です。
押す・引く・持ち上げる・ねじる・運ぶといった介護動作を極力排除して行う必要があります。
しかし、どうしても対処できない場合はその環境に合わせたトランスファーの方法を選んでいく必要があります。
そうすることで、介助者も、対象者も体の負担を少なくすることができます。
トランスファーは介助の中の基本であると同時に、負担の大きな動作になります。
腰痛の発生を予防し、安全・安心して行える介助の方法をマスターしていきましょう。