当院の整形外科にはスポーツ障害の方が多く来院します。
今回は「前距腓靭帯損傷/断裂」について、病理学とリハビリテーションを簡単にお話していきます。
▽こちらも合わせてどうぞ▽
足関節捻挫は「前距腓靭帯損傷」を疑う
前距腓靭帯(ATFL)はここにあります。
足の捻挫では足関節内反捻挫が90%以上を占めていますので、前距腓靭帯(ATFL)が損傷しやすいです。
以降、前距腓靭帯を「ATFL」と表示します。
ATFLが最も損傷しやすく、次いで踵腓靭帯、後距腓靭帯が損傷しやすいと言われています。
足関節外側は「前距腓靭帯」「踵腓靭帯」「後距腓靭帯」で固定されていますが、どれもそこまで強い靭帯ではありません。
ある研究では、前十字靭帯の伸長ストレスは1800Nまで耐えられるのに対し、ATFLは200N程度しか耐えられないそう。膝の靭帯に比べ、10倍くらい弱いと思っていただいてOKです。
だからATFLは損傷しやすく、伸びたり切れたりすると内反捻挫しやすくなったり、膝への負担が増大しやすいんです。
そこで、装具やサポーターで固定したり靭帯再建術を行って強固に固定していくわけです。
前距腓靭帯再建術で注意したい「再建腱」はどこの腱?
当院ではATFL再建術に半腱様筋腱を使用しています。
半腱様筋腱は強固である上に、腱を取ってもハムストリングスの筋力低下が出にくいというのが理由です。
しかし、どの医者も必ず半腱様筋腱を使用する訳ではないので、理学療法士は必ず「どこの腱を使用して再建したか」を確認すべきです。
靭帯縫合術(修復術)
ATFLの断裂部を意図で縫合するのみの手術です。
ATFLの機能が残存している場合に実施されますが、1度断裂した靭帯ですので強固とは言えません。
理学療法士は「荷重」「床反力」を想像しながら慎重に荷重量を見極めなければなりません。
靭帯再建術
ATFLに代わる腱を、ご遺体や自身の腱から利用するものです。
利用した腱によって強度が変わるため、どこの腱を利用したか確認する必要があります。
- 短腓骨筋腱:強固
- 足趾伸筋腱:脆弱
- 大腿筋膜:脆弱
- 半腱様筋腱:強固
- 人工靭帯:強固
どの腱も一長一短あります。
例えば、足趾伸筋腱はあまり強くない腱ですが、採取後の障害が少ない。
人工靭帯は強固ですが神経が通っていないので異物感があるなど。
当然、再建したATFLの治療とともに採取した自家腱への介入も必要となります。
前距腓靭帯再建後のリハビリ
まずは医師から免荷スケジュールを聞きます。
一般的には
- 1週目:完全免荷
- 2週目:抜糸・部分免荷・足関節固定装具
- 3週目:80%免荷~67%免荷
- 4~6週:足関節自動運動
- 12週:歩行、ランニング
となっていますが、当院ではもう少し早いスパンで荷重しています。
半腱様筋腱を利用しているので、障害部位が強固になっているからだと思います。
禁忌は足を投げ出したり、踵から床を叩くような動作(踵落しなんか絶対ダメ)です。
踵骨が前方突出するような衝撃は加えないようにします。
リハビリ自体は
- 1~3週:タオルギャザー・スクワット(免荷)・股関節運動など
- 4~6週:足関節自動他動運動・荷重練習・エルゴメーター
- 7~8週:杖歩行練習・スクワット(全荷重)ストップ&ゴー
などです。
運動自体はこちらの動画と似たようなことをやればOKですが、術後早期は実施しないでください。
あくまで、荷重制限が取れてから行います。
歩行に関しては、最初は松葉杖で、徐々に歩行器、キャスター付き歩行器、ロフストランド杖、T字杖へと移行していきます。
ATFLを強固にするために絶対に必要なのが腓骨筋の筋トレで、術前から積極的に運動していくべき。
荷重制限、可動制限が取れたら、腓骨筋のエクササイズもぜひ行ってください。
前距腓靭帯損傷後によくある質問
いつからお風呂に入れるの?
術後1~2週は患部を防水シールで保護し、シャワー浴となります。
抜糸され、傷口が収まること、そして炎症症状が無いことを確認し、浴槽に入ることができます。
りはびりでは床からのプッシュアップ練習をして、入浴に向けた準備が必須です。
いつから普通に歩けるの?
歩行に関しては術後早期から実施します。
松葉杖を利用して免荷させるので、術前から松葉杖練習をしておかないと大変です。
医師から全荷重OKの指示がでて、リハビリが順調に進んでいてば、全荷重日から1~2週で杖なしで歩けます。
ただし違和感はあると思うので、普通に問題なく歩けるようになるまではもう少し期間を見るべきだと思っています。
退院後もリハビリに通うの?
退院日は人によって異なりますが、松葉杖で退院する場合が多いのでその後も週2日くらいの頻度でリハビリを実施します。
術後6週くらいまでは週2回で、その後徐々に回数を減らしていけばOKです。
基本的にはセルフエクササイズを指導し、自宅で運動していただくことが多くなると思います。
いつから仕事に復帰できるの?
仕事にもよりますが、デスクワークでしたら松葉杖でも仕事は可能なので、術後2週程度で復帰していいでしょう。
仕事によっては復帰困難な場合があるので、傷病手当などの社会的資源を活用して焦らず治療することをおすすめします。