
理学療法士なら、患者さんの歩き方を見たときに、
「右足が出しにくそうだな」
「体幹がかなり左右に揺れているな」
など、歩き方の特徴から身体の問題を考えることが多いと思います。
しかし、歩行を観察するときに、足ばかり見ていませんか?
実は、腕の振り方にも、その人の身体の状態が表れます。
患者さんだけではありません。
健常者の歩き方を見ても、人によってさまざまなクセがあります。
そのクセをただ「変わった歩き方だな」で終わらせるのではなく、
「なぜ、このような歩き方になっているのだろう?」
と考えられるPTを目指しましょう。
今回は、その中でも特に見逃したくないアームスイング(腕振り)について解説します。
歩きのクセを見抜くためのポイント

まずは、歩いている人を見たときに、どこをチェックすればよいのか確認してみましょう。
もちろん、ここで紹介する特徴があれば必ず同じ問題があるというわけではありません。
あくまでも、「この歩き方なら、この部分を評価してみよう」という最初のヒントとして考えてください。
①靴を擦りながらあるく人
歩くときに、靴底をズルズルと擦っている人がいます。
このような人は、足を持ち上げる筋力が低下している可能性があります。
この状態を、歩行では「フットクリアランスが少ない」と表現します。
簡単に言えば、「足が十分に上がっていない」ということです。
実際に歩いているところを見るだけでなく、靴底を確認してみるのもおすすめです。
靴底の一部分だけが極端にすり減っている場合は、「なぜ、ここだけ減っているんだろう?」と原因を考えてみましょう。
ただし、靴の減り方だけで筋力低下などを決めつけるのではなく、実際の歩行や身体機能と合わせて確認することが大切です。
②体幹を左右に振る、もしくは全く動かさない人
歩行中は、体幹や骨盤がある程度回旋します。
ところが、歩いているときに体幹を左右に大きく振っている人がいます。
このような場合は、骨盤を持ち上げるための筋力が弱くなっている可能性があります。
一方で、体幹がほとんど動かない人もいます。
この場合は、
- 身体がかなり硬い
- 体幹の回旋可動域が低下している
- 腰痛などによって動きを避けている
といった可能性を考えます。
大切なのは、「体幹が動いていないから、この筋肉が悪い」とすぐに決めつけないことです。
実際に身体を動かしてもらい、可動域や筋力、痛みなどを確認してみましょう。
③猫背で歩く人
いわゆる、体幹が前に傾いた状態で歩いている人です。
このような歩き方を見た場合は、
- 首や肩の可動域制限
- 肩こり
- 肩甲骨周囲の問題
などがないか確認してみましょう。
また、身体的な問題だけでなく、精神的な状態が歩き方に影響している場合もあります。
そのため、「姿勢が悪いから筋力が弱い」と単純に考えるのではなく、「身体的な原因なのか、それとも別の要因があるのか」を考えながら評価していきましょう。
④お腹を前方に出して歩く人
お腹を前に突き出すようにして歩いている人もいます。
このような場合は、腹筋の筋力低下を考えてみましょう。
また、大殿筋歩行のような特徴的な歩き方でも、このような姿勢が見られることがあります。
そのため、「お腹が前に出ている=腹筋が弱い」と決めつけるのではなく、股関節周囲や体幹の状態も一緒に確認するとよいでしょう。
⑤腕を振らないで歩く・または凄く大きく振る人
そして、今回のテーマです。
歩行中の腕の振りは、アームスイングと呼ばれます。
- 腕を振っているか、振っていないか。
- 左右で違いがあるか。
- 肘から先だけを振っているのか。
- それとも肩から大きく振っているのか。
このような違いを見るだけでも、その人の身体機能についてさまざまなことを考えることができます。
腕を振って歩く理由とは?
そもそも、なぜ人間は歩くときに腕を振るのでしょうか?
アームスイングには、歩行を効率よくする役割があると考えられています。
腕を振らずに歩く場合と、自然に腕を振って歩く場合では、エネルギー消費に差が生じます。
つまり、腕を振ることによって、少ないエネルギーで効率よく歩くことができるということです。
歩行では、脚だけが動いているわけではありません。
体幹や骨盤も回旋し、身体全体が連動して動いています。
その動きを効率よくするために、腕の振りも関係しています。
実際に、腕を組んだ状態や手をポケットに入れた状態で歩いてみると、普段より歩きにくく感じる人も多いでしょう。
場合によっては、エネルギー消費が大きくなり、息切れしやすくなることもあります。
つまり、アームスイングは単なる「腕の無駄な動き」ではありません。
効率よく歩くための大切な動きの一つと考えることができます。
【外部リンク】人はなぜ歩くときに腕を振るのか?米の科学者らが検証|BBnews
人間が歩く際に体幹の上下運動も行います。体幹と骨盤も回旋運動をしますよね。
その運動を効率よく出現させているのが、いわゆるアームスイングであると考えられています。
実際に腕組みをしながら歩いたりポケットに入れながら歩くと、エネルギー消費が大きく、息切れもしやすいのです。
と、いうことは、腕を振るということは無駄な動きで無く、効率よく歩くために必要な動作であるということになります。
腕を振る人と、振らないで歩く人の特徴
ここからが、実際の歩行観察で重要な部分です。
同じ「腕を振る」という動作でも、人によって振り方は違います。
例えば、
- 腕を大きく振る
- 腕をほとんど振らない
- 肘から先だけを振る
- 片方の腕だけ大きく振る
など、さまざまです。
新人PTのうちは、まず、「腕がどう動いているか」を見るところから始めてみましょう。
そのうえで、「なぜ、このような腕の振り方になっているのか?」と考えていくことが大切です。
腕を大きく振る人の特徴と問題点
まず、腕を大きく振って歩く人です。
このような人は、アームスイングを利用して歩行の推進力を得ている可能性があります。
前述したように、アームスイングには歩行を効率よくする役割があります。
そのため、「腕を大きく振る=良い歩き方」とは限りません。
むしろ、腕を大きく振らないとその速度で歩けない、または長い距離を歩けない可能性も考えられます。
そこで疑いたいのが、
- 下肢の筋力低下
- 持久力の低下
などです。
例えば、歩行速度を上げるために、下肢だけでは十分な推進力を出せない。
そこで、腕を大きく振ることで身体を前に進めようとしている。
このような可能性を考えてみます。
もちろん、腕を大きく振る人すべてに問題があるわけではありません。
重要なのは、「腕を大きく振っている」という事実から、身体機能を評価するきっかけを作ること
です。
持久力を確認する方法としては、自転車エルゴメーターなどを使う方法もあります。
エルゴメーターには「体力テスト」などのモードが搭載されている機種もあります。
そのような機器を利用して、体力を確認してみるのも一つの方法です。
腕を振らない人の特徴と問題点
次は、腕をほとんど振らない人です。
特に注意したいのが、「肘から下だけを振っていて、肩や上半身がほとんど動いていない人」です。
このような場合は、
- 肩甲骨周囲の柔軟性低下
- 体幹の回旋可動域低下
- 体幹の回旋に関わる筋力低下
などを考えてみます。
歩行中のアームスイングは、単純に腕の筋肉だけで腕を振っているわけではありません。
体幹や骨盤の回旋など、身体全体の動きが関係しています。
簡単に言えば、体幹が回旋する → その動きが上肢に伝わる → 腕が自然に振られるというイメージです。
そのため、肘から先だけを振っている人を見たら、「体幹の動きが腕までうまく伝わっていないのでは?」と考えてみましょう。
では、なぜ伝わらないのでしょうか?
ここで、
- 体幹そのものが回旋していない
- 体幹は回旋しているが、途中のどこかで動きが止まっている
- 肩甲骨周囲の動きが悪い
などの可能性が出てきます。
そこで、
- 体幹の回旋可動域
- 肩甲骨周囲の可動性
- 体幹や肩周囲の筋力
- 自動運動で体幹の回旋が出せるか
などを評価していきます。
ただ歩き方を見るだけで終わらず、「歩行で見えた問題を、実際の身体機能の評価につなげる」ことが大切です。
片方の腕だけ振れているときに大切なこと
片方の腕しか振れていない場合は、「振れている腕が問題なのか?」それとも、「振れていない腕が問題なのか?」という両方の視点から考えることが重要です。
新人PTのうちは、つい、「左腕が振れていないから左肩が悪い」と考えてしまいがちです。
しかし、歩行は身体全体が連動して行う動作です。
左腕が振れていない原因が、右下肢や体幹にある可能性もあります。
だからこそ、一部分だけを見て判断しないことが大切です。
さいごに:歩行は足だけでなく、上肢にも着目しよう
歩行を観察するとき、どうしても足元に目がいきやすくなります。
しかし、歩行は足だけで行っているわけではありません。
体幹、骨盤、肩甲帯、上肢など、身体全体が連動しています。
その中でも、腕の振り方を見るだけで、
-
- 体幹の回旋
- 肩甲帯の可動性
- 下肢の筋力
- 持久力
- 左右差
などについて考えるきっかけを作ることができます。
もちろん、「腕を大きく振っているから、この筋肉が弱い」といったように、一つの特徴だけで原因を決めつけることはできません。
歩行観察はあくまで、評価のスタート地点です。
- まずは歩き方を見て、「あれ?ちょっと変だな」と気づく。
- 次に、「なぜ、このような歩き方になっているんだろう?」と考える。
- そして、「それを確認するために、どんな評価をすればいいだろう?」とつなげていく。
この流れができるようになると、歩行観察が一気に面白くなります。
今回はアームスイングについて紹介しましたが、見るべきポイントは腕だけではありません。
- 頭の向き
- 体幹の回旋
- 骨盤の回旋
- 体幹の前傾・後傾
- 上肢の動き
- 下肢の動き
など、さまざまなところにその人の「歩き方のクセ」が隠れています。
ぜひ普段の臨床でも、「なぜこの人は、この歩き方をしているのか?」という視点を持って、歩行を観察してみてください。
その小さな気づきが、評価や治療につながることがあります。
歩行を見ただけで全てが分かる必要はありません。
まずは、歩行から問題点を予測できるPTを目指していきましょう。




