日常生活活動、いわゆるADLは、理学療法士なら日常的に耳にする言葉ですよね。
特に急性期や回復期の病院では、患者さんができるだけ安全に自宅へ帰ることを目標にすることが多くあります。
では、患者さんが自宅に帰るためには、どのような能力が必要なのでしょうか?
- 「歩けるようになればいい」
- 「トイレが自立すればいい」
- 「着替えができればいい」
もちろん、これらも大切です。
しかし、それだけでは不十分なことがあります。
理学療法士として大切なのは、「そのADLを行うために、どのような動作や能力が必要なのか?」まで考えることです。
今回は、ADLを向上させるために必要な評価と、その考え方について、新人PTにも分かりやすく解説します。
日常生活を送るために必要なこと「困ること」から考えよう
ADLの代表的な項目といえば、
- 食事
- 整容
- 更衣
- 排泄
- 入浴
などがあります。
しかし、これらがすべてできれば、自宅に帰れるのでしょうか?
実際には、そう簡単ではありません。
例えば「食事が自立している」という患者さんがいたとします。
食事そのものは一人でできても、
- 食事をする場所まで移動できるのか
- 食器を準備できるのか
- 食事後に食器を片付けられるのか
といった部分まで考える必要があります。
つまり、ADLを考えるときには、その作業そのものだけではなく、その前後にある動作まで考える必要があります。
これを「作業をするまでのプロセス」として考えています。
ADLは「できる・できない」だけで考えない
新人PTの頃は、
- 「トイレ自立」
- 「更衣自立」
- 「食事自立」
というように、ADLを一つの項目として考えてしまいがちです。
しかし、実際の生活はそんなに単純ではありません。
例えばトイレに行く場合でも、
ベッドから起きる
↓
立ち上がる
↓
トイレまで歩く
↓
扉を開ける
↓
便座に座る
↓
排泄する
↓
立ち上がる
↓
服を整える
↓
トイレから出る
↓
自分の場所まで戻る
というように、多くの動作が組み合わさっています。
この一つ一つの動作のどこかに問題があれば、「トイレ自立」が難しくなる可能性があります。
だからこそ、「何ができないのか?」だけではなく、「どこで困るのか?」を考えることが大切です。
日常生活の考え方:あなたは朝起きたら何をしますか?

ここで一度、自分の生活を思い出してみましょう。
あなたは朝起きたら、最初に何をしますか?
「トイレに行く」
「顔を洗う」
「歯を磨く」
など、いろいろあると思います。
しかし、ADLを細かく評価するのであれば、もう少し細かく考えてみましょう。
理学療法士は動作を評価する仕事です。
だったら、日常生活も動作から考えてみましょう。
私が朝起きたときの動作を細かく考えてみる
例えば、私の場合は朝起きたらまず時計を確認します。
時計は携帯電話で確認するので、最初にすることは、「携帯電話を探す」ことです。
その後、
携帯電話を持つ
↓
顔の前まで持ってくる
↓
画面を確認する
という動作をします。
そして、時間を確認したら起き上がります。
床に布団を敷いて寝ているので、
側臥位になる
↓
四つ這いになる
↓
立ち上がる
という流れになります。
その後、布団を整えて、洗面所まで約2m歩いて移動します。
ここまで細かく考えてみると、どうでしょうか?
単純に「朝起きて洗面所に行く」というだけでも、実際にはたくさんの動作が含まれています。
これが、理学療法士としてADLを考えるときに重要なポイントです。
「患者さんが朝起きたら、実際には何をするのか?」ここまで考えてみましょう。
そして、その動作を一つずつ分析していきます。
朝起きて携帯電話を見るまでに必要な能力を考える
先ほどの動作を、さらに細かくしてみましょう。
①手を伸ばして携帯電話を探す
まず、携帯電話がどこにあるのかを手探りで探します。
ここでは、
- 手を伸ばす
- 触って探す
- 位置を確認する
といった能力が必要です。
②携帯電話を持つ
携帯電話を見つけたら、手で持ちます。
ここでは、「物をつかむ能力」が必要になります。
③携帯電話を顔の前まで持ってくる
携帯電話を持ったら、顔の前まで動かします。
ここでは、
- 肘を曲げ伸ばす
- 肩を動かす
- 手を適切な位置まで持ってくる
- 関節の位置をコントロールする
などの能力が必要になります。
④画面を操作する
最後に、画面を操作して時間を確認します。
ここでは、
- 指を動かす能力
- 物を持った状態で手をコントロールする能力
- 感覚
- 視覚
なども関係してきます。
必要な動作を「身体機能」に置き換えてみる
ここまで考えたら、次はさらに一段階進みます。
例えば、「携帯電話を顔の前まで持ってくる」という動作ができない患者さんがいたとします。
では、何が原因なのでしょうか?
そこで、
- 肘の屈曲・伸展
- 肩の屈曲
- 肩の内外転
- 肩の水平屈曲
- 手指の随意運動
- 深部感覚
- 表在感覚
などを確認します。
このように、
ADL
↓
必要な動作
↓
必要な身体機能
↓
評価
↓
不足している機能を確認
↓
治療プログラムを考える
という流れで考えることができます。
これがADL評価の基本的な考え方です。
ADL評価で大切なのは「何が足りないか」を見つけること
ここまで細かく考えると、「この患者さんには何が必要なのか?」が見えてきます。
そして、実際に評価を行うことで、「必要な能力は分かった。でも、この患者さんには何が足りないのか?」というところまで考えられます。
例えば、「立ち上がりが必要」ということが分かっても、それだけでは治療はできません。
実際に評価して、
- 下肢筋力が足りない
- バランス能力が低下している
- 足関節の可動域が低下している
- 疼痛がある
など、原因を探していきます。
そして、見つかった問題に対して治療を行います。
つまり、ADLを考えることと、身体機能を評価することは別々ではありません。
ADLから逆算していくことで、「なぜ、この評価をするのか?」が分かりやすくなります。
細かく考えすぎるのも注意!患者さんに分かる説明をしよう

ここまで読んで、「ADLは、とにかく細かく分解すればいいんだ!」と思った新人PTもいるかもしれません。
しかし、細かく考えることには注意点もあります。
理学療法士として自分の頭の中では細かく考える必要がありますが、それをそのまま患者さんに説明すると、逆に分かりにくくなることがあります。
例えば、「朝起きる練習をしましょう」と言っているのに、突然、「今日は携帯電話を探すための肩関節の運動をしましょう」と言われたら、患者さんも、「何のためにやっているんだろう?」となりますよね。
そのため、
- 頭の中では細かく考える。
- 患者さんには分かりやすく説明する。
この使い分けが大切です。
例えば「トイレまで歩く」を細かく考えてみる
例えば、トイレまで5m、手すりなし、引き戸という環境だったとします。
「トイレまで歩けるか?」だけを考えるのではなく、
トイレまで5m歩く
↓
扉の前で止まる
↓
扉に手を伸ばす
↓
扉を引く
↓
身体をトイレの中へ入れる
と考えてみます。
すると、「歩行はできるけれど、扉を開けるときにふらつく」といった問題が見つかるかもしれません。
そうなれば、
- 壁伝い歩行にする
- 杖を使用する
- 手すりを設置する
- 扉の環境を変更する
など、いろいろな解決方法を考えることができます。
つまり、「トイレに行けない」という大きな問題を、「トイレまで5m歩く」「扉を開ける」という小さな問題に分けることで、何が問題なのかが見えやすくなります。
身体機能だけではなく「環境」も評価しよう
ADLができない理由は、必ずしも身体機能だけとは限りません。
例えば、患者さんが杖を使えば歩けるとしても、「杖を使った状態で扉を開けられるのか?」という問題が出てくるかもしれません。
逆に、身体機能だけを見ると難しそうな動作でも、環境を変えることでできるようになる場合があります。
そのため、
- 手すりの有無
- 扉の種類
- ベッドの高さ
- トイレまでの距離
- 家具の配置
- 動線
なども確認しましょう。
患者さんの生活を考えるときは、「身体をどう治すか」だけではなく、「どうすれば生活できるか」という視点も重要です。
こうした環境調整や生活動作については、作業療法士が得意な部分でもあります。
必要に応じてOTにも相談してみましょう。
まとめ:ADLを細かく分けると、評価と治療が見えてくる
ADLを評価するとき、最初から難しく考える必要はありません。
まずは、「この患者さんは、家に帰ったら何をするんだろう?」と考えてみましょう。
そして、その生活を一つずつ細かく分けていきます。
例えば、トイレに行くだけではなく、
ベッドから起きる
↓
立ち上がる
↓
5m歩く
↓
扉を開ける
↓
方向転換する
↓
便座に座る
というように分けて考えます。
さらに、その動作には何が必要なのか?を考えます。
そして、その患者さんには何が足りないのか?を評価します。
最後に、足りない部分をどう改善するのか?それとも環境を変えればできるのか?を考えます。
この流れを意識するだけでも、ADLに対する見方はかなり変わってくるはずです。
ADL評価で大切なのは、単純に「できる・できない」を判断することではありません。
- 「なぜできないのか」
- 「どこで困るのか」
- 「どうすればできるようになるのか」
まで考えることです。
新人PTのうちは、評価項目を覚えることに一生懸命になりがちです。
もちろん、それも大切です。
しかし、それと同時に、「患者さんが実際の生活で何をするのか」を想像してみてください。
患者さんが朝起きてから夜寝るまでをイメージすると、今まで見えていなかった問題が見えてくることがあります。
その小さな気づきが、評価につながり、治療につながり、最終的には患者さんのADL向上につながります。
まずは明日から、「この患者さんは家に帰ったら、次に何をするんだろう?」と考えるところから始めてみましょう。



